才能

たった一つだけ私には才能がある。どんなにつまらないアニメでも視聴し続けるという才能である。俗に言われるアニメを「切る」という行為をあまりしない。これはひとえに兄の教育の賜物であると言えるであろう。いち早く私の才能に気が付いた兄によるエリート教育のおかげで、私は中学生のうちには名作と呼ばれる大体の過去アニメの視聴は終えていたし、かつ当時リアルタイムで放送されていたらきすたハルヒ、瀬戸花と言った黄金アニメもしっかりと抑えていた。そうした教育の過程で、「序盤はありえんつまらないけれど尻上がりに面白くなるアニメ」が世の中にはあることを私は知った。彼には感謝しているし、結果としていつかは自分でもオタクになっていたかもしれないが、私は時々オタクではない世界線の自分を想像してならない。

この才能を開花するきっかけとなったアニメが「新世紀サイバーフォーミュラ」である。兄は初めに一言「10話だけ耐えてくれ」と宣言した。それまで彼が勧めてきて視聴が耐え難いアニメに出会ったことがなかった私はその言葉を冗談半分に捉えていた。そして視聴を開始し、気が付いた。このアニメは面白くないと。主人公のハヤトが子供すぎた。人の話は聞かない、一度成長したと思ったらまた元に戻る(この現象がファンの間で病気と呼ばれていることは後々知った)。レースシーンの変形やブーストといった演出には心を鷲掴みにされたものの、いかんせんレースの外の脚本が驚くほど面白くなかった。しかし、視聴することは苦ではなかった。幾度となく私の隣で兄に面白い?と聞かれては面白くない、と返事はしたものの、視聴をやめることはなかった。どれだけつまらなかったとしても、アニメを見ることを苦痛に感じることは無く、これは素晴らしい才能であることをベタベタに褒められた。人生で褒められた経験はこれくらいしかない。

とにかく、序盤のそうした掴みの悪さ、そして玩具の売れ行きの悪さなどの条件が重なり、本作品は全36話で打ち切りとなっている。ところが、終わってからの評価は抜群だった。終盤の熱いレース展開で、メインターゲット外の中高生や大人の評価が高まり、その後OVAとして10年間続く異例のロングランシリーズとなった。私自身、最後まで視聴した後評価は180°変わり、初めて買ったアニメのBDBOXとなる記念すべき作品になった。この経験で、アニメは最初の数話で判断してはいけないという大きな教訓を得ることになり、ひいては最初に述べたどんなにつまらないアニメでも視聴するという才能を開花させることになった。

 

今季その才能をいかんなく発揮している場が、「逆転裁判~その『真実』、異議あり!~」である。元々はカプコンが製作したゲームであり、私自身何時間もかけてプレイしたことのある馴染みの深い作品である。それを無理矢理30分1クールに詰め込んでいるので、脚本はとにかく駆け足で、そのうえアニメーションとして裁判を面白くするために異議や証拠をつきつけると強風が吹くという謎の演出が加えられている。はっきりいって面白くない部類のアニメだと思う。インターネット上ではオタクの批判が痛烈に飛び交い、私はこの件について一切の情報を調べることをやめた。世間の評判がどうであろうと、私自身は毎週わりと楽しみに視聴を継続しているし、とにかくこの才能があってよかったと思う。最近はアニメの逆転裁判を視聴した後、DSで一つ事件を解決するのが一連の流れになっている。現在は逆転裁判3第5話「華麗なる逆転」をプレイしている。今回でおそらく6周目くらいのプレイである。ただ、恐ろしいことに、その5回はしたはずの探偵パートで躓いてもう何時間も先に進めていない。何度やっても楽しめるというのが、このゲームの醍醐味だと思う。もしくは私が著しく学習能力の低い馬鹿だからという可能性も考えられるものの、この件については深くは考えないことにしたい。