ルーティン

世間一般の飲み会がどうなのかは知らないけれど、私が友人と飲む時のほとんどはどこで何時間飲むのかは最初は決まっていない。とりあえず集合し(仙台駅前であることが多い)、ふらふらと歩き(たいてい西口のアーケードだ)、それなりの店に入り、それなりに飲み、話がはずめば次の店に移動するし、そうでなければ解散だ。でも、外出する際兄は決まってどこに行き何時に帰ってくるかを聞きたがる。昔からそうなのだ。彼の中で私はいつまで経っても守るべき妹であり、行動を把握すべき対象であり、きっとこれからもそうなのだと思う。正直鬱陶しいけれど、たぶんこの関係は私が就職して家を出てしまえば終わってしまう。そして内定を獲得した今、それはそう遠くない未来のことだと思う。だから私はなるべく、具体的な友人の名前を挙げ、終電前には帰るようにすると口にする。そうして半分くらいの確率できちんと終電前には帰ってくるし、半分くらいの確率で終電を逃すことになる。とにかくこのやりとりに意味はなく、ただ彼を安心させるためのルーティンに過ぎない。

 

先日の飲み会もそのようにして始まった。高校時代の友人二人と仙台駅前に集合し、西口のアーケードをふらふらと歩き、何人かのキャッチに捕まり、その中で最後に声を掛けてきた二十歳の男の子の店に行くことに決めた。もう少しで国分町まで歩いてしまうところでそろそろ店に入りたかったし、価格設定も料理も申し分なかったし、なによりその男の子はかわいかった。料理も酒もおいしかったし、道中で今回は私たち三人の誕生日をまとめて祝うという趣旨を彼に伝えていたため、突然照明が落ちて少しもサプライズではないケーキが運ばれてきて、それを喜んで食べた。そうして3時間ほど飲んでいる間に、私は彼女たちから奔放な性生活について聞かされており、また対照的に全く何もない私の性生活についてなじられていた。彼女たちは私を叱咤激励し、取り敢えず男に会わなければ始まらないと意気揚々と相席屋に行こうとしていた。結局そのあと相席屋に行くことはなく、店を出てすぐナンパに捕まり、彼女たちは二つ返事でそれを受け、私も問答無用でそれに連れていかれた。九州から来たという彼らは日に焼け、サングラスで、短パンで、九州なまりで、とにかく私のタイプから何光年もかけ離れた存在だった。向こうにしてもおそらくそうだったと思う。友人たちはまだ6月の半ばだというのにヘソの出た服を着ており(今それを着たら8月は何を着るのかと訊いたら全裸!と返された)、いかにもナンパされそうな可愛さを持っていた。私は彼女たちのオマケであることは明らかだった。私は家を出る直前まで寝ていて、とっさに着る服が手元に無かったためリクルートスーツ(!)を着ていた。九州男児(42歳)に君はなんでスーツなの、と尋ねられて服が無いので、と答えると、一同は大いに笑った。

 

店を出てからしつこく彼らは後ろについてきた。友人たちは店にいた時の態度とはうってかわって彼らを冷たい言葉ではねっかえし、しまいにはアーケードのど真ん中でしつけえな!と叫んで撃退した。酒代を出してもらった相手に悪いのではと私が聞くと、見ず知らずの女の子と飲めたんだからむしろ感謝するべきだと至極当然のような顔をしていた。なるほどな、と思った。案の定終電は逃していて、どうしようかと悩んでいると、友人が誰かに電話をしていた。数分後には彼女の友人だといういかにもチャラそうな男の子が運転する車が駅前に到着した。彼は友人の電話一本で、午前一時過ぎに駅前まで車を飛ばし、見ず知らずの私を自宅まで送って去っていった。タダで酒を飲みタダで帰宅できたわけだ。なのに少しも楽しくなかった。かわいい女の子は恩恵を受けていて、それなりのルーティン(ナンパされ、ついていき、気に入れば何人かと関係を持つ)を繰り返す。そして私にはそれが縁のない世界であるということを再確認する日だった。