大学生

あまり一日に立て続けて文章を書くのは好きではないけれど、文章というのは書きたい時に書けるだけ書くのが良いというのを経験則で知っているので、再びキイボードの前に座っている。以前最寄りの西友で、お菓子の冷ケースの中に豆腐のパックが放り込まれているのを見て無性に何かを書きたくなった記憶があるけれど、何を書きたかったかすっかり忘れてしまった。それ以来、思いついたことはとにかく形に残しておくように心掛けている。

今回は別に書きたいことが思いついたわけではなくて、ただ単に眠れないうちに朝が来てしまっただけである。随分前からベッドでは眠れなくなってしまって、今日も床で本を読んでいるうちに空が白くなっていた。なにしろ父親が十年以上も使用していたベッドなので、経年劣化でマットレスのスプリングはとうに切れており、ベッドで寝るほうがかえって疲れてしまうのだ。もはやこうなるとセミダブルのベッドは部屋の大部分を占領するただのゴミでしかない。今は専ら、すっかり使われなくなった電子ピアノと、すっかり使われなくなったセミダブルのベッドの間の床の上に―私の部屋にはすっかり使われなくなった物ばかり置いてある―タオルケットと枕を敷いて寝るようにしている。三日に一日くらいの割合で空が明るくなる前に寝ることが出来る。残りの二日は考え事をしたり(夜に考えてもろくな答えは出ないのでよした方がいい)、本を読んでいる内に睡眠に然るべき時間をやり過ごしてしまう。今日は読み掛けだったフリーマントルの「嘘に抱かれた女」を読了すると夜が明けていた。オットーが行為の最中エルケに「きみのことしか考えられない」と言いながら、頭の中ではうまいレバーケーゼとザワークラウトを出すケルンの店の名前を必死に思い起こそうと努めるシーンが素敵だった。

前回区立の図書館に行ったのは8月28日であり、本の返却期限は9月11日だった。まだ六日間猶予があるけれど、借りた五冊の小説は全て読み切ってしまった。貸出票を眺めながら何を借りるか考えている途中で、今日は月曜日なので図書館が休みなことを思い出して溜め息が漏れた。本当はこんな古ぼけた小説ばかり読む時間があるならば、運転免許なり色彩検定なりの取得に向けた行動を起こさなければならないのだけれど、今は古ぼけた小説が無性に読みたい期間なのだから仕方がない。大学生というのは、思い立ったときに思い立った行動が出来る唯一の期間なのだ。今私は無性に焼きたてのパンが食べたくなったので、近所に早朝に開店するパン屋が無いか調べている。