焼魚

気が付けば十一月になっていた。たしか先月も気が付いたら十月になっていた気がする。つい先日まで似合わないハーレークインの仮装をした女の子がそこら中に溢れていたのに(私は恋人のいない22歳大学生アルバイトの仮装をした)、今では電飾をまとった巨大なクリスマスツリーがペデストリアンデッキに鎮座している。うかうかしている間に時間は足早に過ぎ去っていく。この分だと次に気が付いた時にはもう社会に出なければいけない時かもしれない。残りわずかとなったモラトリアムを少しでも有効に活用するため、私はハードカバーを手にして日の光が差し込む布団に潜り込んだ。

 

先日からようやく自動車学校に通い始めた。今日は初めて実技に入り、人の好さそうな教官に適当すぎるアドバイスを貰いながら教習所内を五周した。後半はハンドルに教官が片手を掛けていたし、もはや自分で運転した感覚は全くないけれど、彼は満足したようで「初めてにしてはいいんじゃない」というなんともあやふやな言葉で授業は締め括られた。何が良かったか全くわからないし、いつブレーキやアクセルを踏めばいいかもいまだに分からないけれど、彼が良いなら良いのだろう。帰りの送迎バスは非常に荒っぽい運転で、有線から流れてきたユーミンの「守ってあげたい」がいつもより胸に響いた。

 

帰りに最寄りの西友に寄ると、アルバイトで何度か顔を合わせた社員と店内で偶然会った。仕事は一緒にしてもプライベートで会うのは初めてだ。何買いに来たの、と訊かれたので今日の晩御飯、と答えると、彼はカゴの中を覗き込みながら「サツマイモと柿の柔軟剤煮込み」と答えた。我々はおおいに笑った。

 

帰宅すると、サツマイモと柿の柔軟剤煮込みを作った。