琥珀色の街

起きると既に昼直前だった。ポジティブに考えるとぎりぎり午前中には起きれているから良しとする。お盆二日目にして今日は誰とも会わないし何をする予定もない、自由な日だった。曇り空だけれど贅沢は言えないので(なにしろ台風が近づきつつある)シーツとタオルケットを洗濯した。アマプラでコーダあいのうたを観てちょっとだけ泣いた。母親が誕生日なので電話をかけた。といっても一昨日も昨日も電話しているので特に話すことはない。五十歳だっけと聞くと四十八よ!と真剣な声で返してきた。二十年くらい四十八で止まっている気がする。母親はいくつになってもかわいい。今日は誰にも会う予定がないとこぼすと、母はそれが一番正しい過ごし方なのよとけらけらと笑った。母は一人で二回もキングダム2を観に行ったと自慢気に話した。吉沢亮は何回見ても顔が良い、ぼやぼやしてると2はそんなに面白くないから終わっちゃうわよと教えてくれた。長くなりそうなので丁重にお礼を言って電話を切った。

お腹が空いていることに気がついたので昨夜つけておいたゴーヤの浅漬けを食べた。ひとつ食べると途端に食欲が爆発した。俄然やる気が出てきたので、ずっと行きたかった近所のケーキ屋へ歩いて行ってみることにした。五条通を横切って欅の並木道を突き進む。蝉の大合唱に怯えて日傘をさす。昔はなんとも思わなかったけれど、これだけの数の蝉がいると考えると恐ろしく感じるようになってしまった。引っ越して約三ヶ月経ち、徐々にこの町にも慣れてきた。梅雨にお世話になった乾燥機のあるコインランドリー。JR東海とモーニングを食べた小川珈琲。後輩に奢らされたラーメン屋。接客が最悪だったので行くのをやめた美容院。なかなか思い出も増えてきた。
二十分程で目当てのケーキ屋についた。ケーキは売り切れだったけれど、焼きたてのマドレーヌが並んでいた。まだあたたかいマドレーヌを受け取り、今きた道を引き返す。少し前まで京都に住んでマドレーヌを買うなんて誰が想像しただろう。去年の今頃は、はじめたばかりの同棲がうまく行かずに毎日泣いていた。人生いろいろある。

家に帰ると久しぶりに豆を挽いてきちんと珈琲を淹れた。洗濯物はちゃんと乾いていた。シーツをベッドに敷くと柔軟剤の匂いがした。誰とも会っていないけれど確かに正しいお盆の過ごし方の気がした。