日記

福島の道路は濡れていて、道行く人の半分は傘をさし、もう半分はささずに歩いていた。雲は梅雨らしく厚くたちこめて、私は傘を持たなかったことをほんの少し後悔した。
新幹線の良い所は、当たり前だけどとにかく速いことだ。椅子に座ってじっとしているだけなのに、2時間と少しもあれば東京に着く。夜行バスを駆使してきた私にとって、これはちょっとしたセンセーションを巻き起こした。もっとも、世の中のほとんどの人はもう何十年も前にその感動を味わったはずだろう。
今日は内定先の人事面談の為に東京に呼ばれていた。私服で構わない、ではなく私服で来い、と明記されていたので、家を出る前に少し悩んだ。結局、就活で着慣れたユニクロの形状記憶のシャツ(アイロンを掛けずに済むというのが売り文句だったけれど、結局毎回アイロンを掛けてしまう)に、黒のガウチョパンツを履いた。良くも悪くも印象に残らないであろう格好だった。新幹線の中は肌寒く、薄手の黒のカーディガンを持ってきて良かったと思うのと同時に、そろそろ色のある服を買わねばならないとも思った。
腕時計の電池交換の為に朝早く家を出たものの、電池交換は5分足らずで終わり、時間を持て余すことになった。喫茶店で食事を取るか、本を買って暇を潰すかを天秤にかけた結果、駅構内の書店で本を買うことにした。本は300頁あったけれど、新幹線に乗って1時間足らずの現時点で既に栞は182頁に挟まれていた。東京に着いたら下巻を買おうと思う。
こうして朝からの出来事を文章にするだけで、時間が潰せるのはありがたい。私は何事も文章にしてみないと物事を理解できない性質だけど、同時に思いついた時にノートを開いてペンを取るのを面倒臭がるくらいにはズボラなので、こうしてスマートフォンの上に指を滑らせるだけで文章が書けるというのは本当にありがたいことだ。いい時代だなと思う。椅子に座っているだけで破壊的な速度で移動できるのも、いい時代だと思う。
窓に水滴が当たり始めた。本格的に降り始めたようだった。時代は進歩して、新幹線は恐ろしく速く走るし、スマートフォンの性能はもはや私が使いこなせないほど発達したけれど、傘だけは何百年も進歩していないように思う。これだけ科学が発達したのだから、傘も折り畳むとマッチ箱くらいの大きさになって、それでいてさしたら全身濡れないようなものになればいいのに。