たのしいおすしやさん

「コロナが出ました」と彼女は言った。つい数分前に私の鼻に突っ込んだ綿棒を調べて粘膜検査している最中だった。陽性ですねとか、コロナですねではなく、コロナが出ましたと言った。お化けじゃないんだからと思ったが、今日初めて会った看護師相手に文句も言えないので私は申し訳なさそうに肩をすくめた。流れるように医師の説明を受け、薬を持たされ、正面口ではなく裏の勝手口みたいな細いドアからお大事に、と帰された。何も言わないのはあまりにも可哀想だから仕方なく付け加えました、と言った感じのお大事にだった。細い裏通りに突然降り立った私を、猫が困ったように見上げていた。猫にさえ可哀想に思われているようだった。

最初の二日は高熱にうなされていたので、嫌な夢を見ては起きるの繰り返しだった。得意先の電話を取っていたり、試験に追われたり、試合でミスをしたり、学校で忘れ物をしたり、嫌な記憶が時系列もはちゃめちゃになって雪崩こんでくるような夢だった。シーツは自分の嫌な汗でぐっしょりと濡れた。なんとか熱が下がったタイミングで廊下を這うようにして歩き、シーツと枕カバーとタオルケットを洗濯機にぶちこんだ。冷房をがんがんにして洗濯物を乾かす間は、予備のタオルケットで体を包み椅子に縮こまった。何かの罰でも受けているように感じた。

後輩と彼氏が食糧を買ってきてくれて、アパートの玄関前に置いてくれた。正直誰かにお願いをするという行為が激しく苦手な私にとって、なにも言わずとも行動に移してくれる彼らの存在はとてもありがたかった。後輩の袋にはゼリーやお粥に混じって知育菓子が入っていた。私のことを赤ちゃんだと思っているらしい。彼氏の袋には果物やポカリに混じって400グラムの冷凍ちゃんぽんが入っていた。元気な時でも食べれないだろう。二人の買って来てくれた食糧を冷蔵庫にしまいながら、ツッコミが出来るくらいまで回復したことにちょっと感動した。