習慣

酒を飲むのがあまり好きではない。

しょっちゅう会社の飲み会に顔を出すので、大抵の人には無類の酒好きだと思われている。私が会社の飲み会に顔を出すのは、性格が悪く八方美人なので社内のたいていの人に薄く好かれており、とりあえずいると便利という理由で呼ばれているだけなのだ。本当は家には酒なんか一本も置いてないし、酒よりコーヒーが好きだ。でもキャラじゃないので言えない。日本酒やビールが好きなのも、甘いお酒でひどい二日酔いになったトラウマで飲める酒がそれしかないから。でもキャラじゃないので言えない。
先輩に呼ばれればなるべく梅田にも高槻にも顔を出す。どんちゃん騒ぎになって収拾がつかなくなっているあたりでそっと後輩に多めに金を握らせて店を出て、終電で京都へ帰る。そんなことを繰り返していると特に好きでもないのに酒に強くなる。強くなるとあいつは酒が強いし面倒ごとにならないし、また呼ぼうとなる。いらないサイクルでしかない。

ただ、酒を飲んだ次の日はちょっと好きだ。

酒を飲んだ次の日-つまり盆初日の今日ーは、決まって早朝に起きる。時計を見ると六時ぴったりだった。体は冷蔵庫で半年以上放置されていた缶ビールのように固くなっている。タオルケットにくるまりながら、昨日のことを思いかえす。先輩に酒を奢ってもらったお返しにコンビニでアイスを買った。アイスを食べながら駅まで歩き、改札に先輩をむりやりぶちこむ。地上に戻り自転車の鍵をあける。その後が一向に思い出せない。頭を振ってベッドから抜け出す。床には昨日脱ぎ捨てたであろう服が抜け殻のように落ちているので拾い上げて廊下へ出る。洗濯機にそれを投げ入れながら玄関を確認すると、昨日履いていたサンダルが蹴散らかされてなにかのダイイングメッセージのように横たわっている。でもイルビゾンテのキーケースは普段の定位置に置かれていた。洗面所にはコードがコンセントから半分引っこ抜かれたドライヤーがぶらさがっている。でも足拭きマットとバスタオルは浴室の物干し竿に掛けられている。私はそれを見て一種の気持ちよさを感じる。酒を飲んだ次の日は、前日酔っ払った痕跡と、それを乗り越えた習慣の賜物がないまぜになった部屋を見るのが私の楽しみになっていた。あまり大きな声で言える楽しみではない。今日の部屋はやや習慣が弱めなので負け(?)。ベロンベロンになって帰ってきても、いつも通りの部屋に出来たら完全勝利。まだ完全勝利したことは一度もない。