広瀬香美

一昨日無事に自動車学校を卒業した。前回の記事から考えればめざましい進歩である。最も、それだけ書く期間が空いてしまったということの裏返しでもあるけれど。先月までも時間はすごいスピードで過ぎていったように感じたけれど、十二月に入ってからのスピードはゆうにその倍は速く感じた。ついこの間はペデストリアンデッキに鎮座する巨大なツリーを見て気が早いもんだと溜息をついたばかりなのに、もうクリスマスは目前に迫っている。アルバイト先の喫茶店もカウンターに小さなツリーが置かれ、シンディ・ローパーの代わりにマライア・キャリーが流れるようになった。いつも彼氏の愚痴をこぼすためだけに私を呼びつける友人たちからの連絡もこの時期はすっかり途絶え(年末に忘年会を開くから予定を開けるように一方的には言われた)、高校時代から付き合っていた彼氏と別れたばかりの友人と久しぶりに会う約束をした。完全に彼氏と過ごす予定だったけど急遽アテが外れたので暇そうな私に声を掛けたという意図が丸見えである。賑わう世間からオタクらしく身を潜めて生きるために明日から五連勤を予定していたものの、二十四日のアルバイトは夕方で終わるため、彼女を慰める役を買って出ることにした。女の子と遊ぶと例外なく異性(それが恋人かセフレか元彼かは各々異なるにせよ)についての愚痴を聞かされるか慰めるかのどちらかをするはめになる。二十二歳というのはそういう年齢なのだろう。私はいまだに自分が二十二歳の実感が湧かない。

 

 

昨日人生で初めてのスノーボードをしてきた。そもそも雪山に行くこと自体が初である。仙台に住んで十五年になるというのに、ウィンタースポーツに全く無縁の人生を送ってきた。オタクだからスノボではなくスキーがいいと言うと、連れは意味が分からないという顔で私を無視してプリウスを走らせた。ゲレンデにはまだ朝の十時だというのに多くの客が来ており、しかもその大半が茶髪の若者で(これは過言ではない)、私は本当に場違いなところに来てしまったなあと漠然と感じた。まるでお菓子の冷ケースの中に放り込まれた豆腐のパックのような気分だった。

初心者で、オタクで、ここ数年ろくに運動していないという情報を何度も連呼したにも関わらず、自前のスキーウェアを着こなす彼の高圧的な態度によりリフトに乗せられ、気が付けばとんでもなく高い位置から眼下に広がる仙台を眺めて溜息をついた。もちろんリフトに乗るのも初めてで、降りる時は案の定こけた。雪山から滑(るように転げ落ち)る、リフトに乗る、雪山から滑るを繰り返すうちに、日が暮れる頃には何とか木の葉落とし(のようなもの)が滑れるまでに成長した。今日が二回目だという彼はターンを練習したいらしく、綺麗な滑走をしては派手に転ぶというのを繰り返し、転ぶ度に笑い転げていた。大抵のことをそつなくこなしてきた彼にとって、できないことを練習するのは楽しいらしい。住む世界が全く異なる人間と遊ぶと、いろいろな発見があることにこの年にして遅ればせながら気が付き、私はすぐにオタクだのパリピだのと線引きをするのは考え物だなと雪にまみれて笑う彼を見ながら考えを改めた。でも帰りの車内でガンガンの音量でAAAを流す奴とはやっぱり趣味が合わないなと思う。