祈り

あまりにも正月らしくない正月だった。正月にしては暖かすぎるし、酷いニュースが多すぎる。帰省中に学生時代の友人四人と会った。一人は妊娠しており(妊娠祝にジョンマスターオーガニックのオイルを渡した)、一人はマンションを買ったらしい(引越祝は今…

レモンケーキ

秋になるとどうにも寂しい気持ちになる。 恋人の有無とか友達との予定とか、そんなの関係なく、なんというか、とにかくやるせない気持ちになる。気温が下がって、冷たい空気が服の隙間からするりと入り込んで物理的に体を冷やすのと同時に、心まで冷たくして…

たのしいおすしやさん

「コロナが出ました」と彼女は言った。つい数分前に私の鼻に突っ込んだ綿棒を調べて粘膜検査している最中だった。陽性ですねとか、コロナですねではなく、コロナが出ましたと言った。お化けじゃないんだからと思ったが、今日初めて会った看護師相手に文句も…

神戸

珍しく何も予定のない日曜だった。空は雲が垂れ込めていて、隙間から若干の青空が見えると言う具合だった。一か八かという気持ちで洗濯物を干した。後輩の女の子から連絡があり、今日の予定を尋ねられた。何もない、今洗濯物を干しているところだと伝えると…

若者のすべて

今日は入社してから幾度となく繰り返してきたよくある模範的金曜日のはずだった。夕方から電話の数がだんだん減って、五時半からの会議に向けてみんながやれやれと思いながら準備を始めているのが感じられた。なんだって金曜日に会議なんかやるんだろう。 私…

上海蟹の朝

現実的な一日だった。そういう一日がある。現実的になって現実的な処理を現実的にしなければならない日。洗濯機を回している間に筋トレと掃除機がけを済ませる。洗濯物を干して化粧をし、阪急で烏丸へ行き美容院で髪を切る。それが終わると真っ直ぐ下京警察…

琥珀色の街

起きると既に昼直前だった。ポジティブに考えるとぎりぎり午前中には起きれているから良しとする。お盆二日目にして今日は誰とも会わないし何をする予定もない、自由な日だった。曇り空だけれど贅沢は言えないので(なにしろ台風が近づきつつある)シーツとタ…

習慣

酒を飲むのがあまり好きではない。しょっちゅう会社の飲み会に顔を出すので、大抵の人には無類の酒好きだと思われている。私が会社の飲み会に顔を出すのは、性格が悪く八方美人なので社内のたいていの人に薄く好かれており、とりあえずいると便利という理由…

jikanganai

ANA740便 10K列から見える窓の外は真っ暗だった。窓の外を見つめていると激しい悲しみに襲われるので、天井から降りているテレビモニタに意識を集中した。京菓子 金平糖の作り方のビデオだった。伊丹空港からバスで30分ほどで京都へ行ける、と締めくくり、次…

ドライブマイカー

いつもとは反対車線のホームへと階段を降りる。八時前のこの時間は当たり前だけどどの方面への電車も通勤に向かう疲れた顔の大人たちで満員なことに変わりはなかった。適当に二本ほど見送り、三本目にきた各停電車に乗った。車窓から見える空は青く、車内に…

金木犀

街にはどこもかしこも金木犀の匂いが溢れていた。家を出た頃に降り出した小雨はいつの間にか止んでいた。赤信号で止まった隙にGAPパーカーのフードを脱ぎ、Googleマップを確認する。投票所まではあと五分ほどの位置まで来ていた。今から私は知らない町の知ら…

コンテナブルー

JR大阪駅の中央改札口前は、待ち合わせをしている人々で混雑していた。私は大きなトートバッグを両手に抱き抱えて人の波を縫うようにしてその中を通り過ぎた。551の前あたりで、おそらくアプリで出会ったであろう男女が敬語で話しているのが聞こえた。かつて…

穴の無いドーナツ

Y君が尼崎に帰ってきたというのを知ったのは、金曜の夜7時だった。比喩でなく文字通りくたくたになった体で家につき、浮腫んで脱ぎにくいヒールから足を無理やり脱出させ、足と手を洗い、マットを広げ、筋トレ用のKポップを流すためにスマホを持ち、やっとそ…

マイナス6.5

恋人に別れを告げられてちょうど一週間が経った。馬鹿みたいに暑くて日陰なんか一つもない鳴尾浜臨海公園で、我々は話し合いとも呼べない平行線な意見の押し付け合いをした。でもこんなのどちらかが折れなければ終わらないのだ。大抵の場面–というか往々にし…

シンデ・ファッキン・レラ

世間がコロナウイルスで騒がしくなり、関西に支社を構える弊社にもその波は押し寄せてきた。八割の社員が在宅勤務へと変更になり、三階の社員食堂は封鎖された。私は残り二割のほうに含まれたらしく、毎日出社しては明らかに減った受注業務をこなし、昼休憩…

遠い太鼓

阪神電車の車内は例年のごとく、ききすぎた冷房でよく冷えていた。冬は強すぎる暖房で車窓が白く曇る。どうしても適温に調節することができない阪神電車に、関西に住んで三年目にも入ると愛おしささえ感じるようになり、私はあらかじめ持っていた薄手のカー…

whatever

四番搭乗口の待合席は、18時45分発 大阪行きの飛行機を待つ人の群れで埋まっていた。飛行機は新千歳空港で大雪の影響のため大幅に出発が遅れているとのアナウンスがあったが、果たしてそれがどれくらいの遅延になるのかについては触れられなかった。誰もが早…

ネムルバカ

三ヶ月ぶりの仙台は、例年より確かに暑いように感じられた。道は空いており、道路には煙草の吸殻がこびりついてたり、ストロングゼロを手にした浮浪者が座り込んだりしていなかった。迎えに来てくれた友人二人は、例年通り肌を露出した服を着ており、片方は…

帰省

年下の恋人は明け方に帰って来た。終電を逃して、カラオケで時間を潰して始発で帰って来たらしい。何が真実で何が嘘かは分からないし、知りたいとも思わなかった。怒ってる?と聞かれたので黙って頭を撫でた。何年歳を重ねても、それに見合うだけの経験と自…

アーバンライナー

久しぶりに昔のブログを読んだら、あまりに自由で怠惰だった生活を思い出して、泣きたくなるほど羨ましくなった。ブログを書く時は大体雨が降っていたことに気が付き、少し笑った。今は近鉄に乗りながら名古屋駅を目指している。空はまさに秋晴れとしか言い…

それでも町は廻っている

前回の記事から随分間が空いてしまった。気が付けばもう三月になり―私はいつも気が付くとかなりの月日を跨ぎがちだ―おそらく学生のうちに書く記事はこれが最後になるだろう。社会人になってからも記事を書けるだけの暇や、そもそも書くことがあるかどうか分…

広瀬香美

一昨日無事に自動車学校を卒業した。前回の記事から考えればめざましい進歩である。最も、それだけ書く期間が空いてしまったということの裏返しでもあるけれど。先月までも時間はすごいスピードで過ぎていったように感じたけれど、十二月に入ってからのスピ…

焼魚

気が付けば十一月になっていた。たしか先月も気が付いたら十月になっていた気がする。つい先日まで似合わないハーレークインの仮装をした女の子がそこら中に溢れていたのに(私は恋人のいない22歳大学生アルバイトの仮装をした)、今では電飾をまとった巨大…

森永

気が付けば十月になっていた。あまり順調とは言えない就職活動に嫌気がさし、文字にすればどこか気持ちが安らぐかもしれないと一縷の希望を託して書き始めた(始めたというより衝動に近い)このブログも、気が付けばこれで十五個目の文章となる。一月に提出…

Pretty Woman

このブログを読んでいる人には悪いけれど―毎回読んでいる人がいるとは思えないので実際のところ悪いとはあまり思っていないけれど―今回も喫茶店の話を書こうと思う。私の毎日は大学と家と喫茶店の往復で終わってしまうので、他に書くことなんか無いからだ。…

大学生

あまり一日に立て続けて文章を書くのは好きではないけれど、文章というのは書きたい時に書けるだけ書くのが良いというのを経験則で知っているので、再びキイボードの前に座っている。以前最寄りの西友で、お菓子の冷ケースの中に豆腐のパックが放り込まれて…

オタク

気持ち悪いオタクであることを急遽思い出したので、知人と新海誠の新作「君の名は。」を見てきた。劇場内はオタクよりも中高生やカップルの比率が高いように見受けられ、若干の居心地の悪さを感じつつも、新海誠もここまで認知されたのだなあと感慨深くなっ…

妥協

飲み会について、以前にもここで文章を書いた記憶がある。今回も全く同じ友人二人と、いつもと同じように仙台駅前に集合し、ふらふらと歩き、今回は駅から歩いて割とすぐの大衆居酒屋に入ることにした。古い映画のポスターやレコードのジャケットが店中に貼…

電話

外では依然として雨が降り続いていた。さっき少し小ぶりになったと思ったのに、今はまた激しくコンクリートを打ち付ける音が店内にまで聞こえてくる。雨が強くなる前に喫茶店を見つけてよかったと、私は窓の外でトラックが激しく水しぶきを上げて走るのを眺…

別れ

約2週間ぶりに勾当台公園駅に降り立った。かつての職場―平たくいうとスナック―から先月分の給料を受け取るためである。勾当台公園駅から歩いて数分のところに、県内(というか東北)一の歓楽街である国分町がある。かつての職場は国分町と書かれたアーケードを…